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話題のおしゃれ図書館でUX/UIを考えてみよう

話題のおしゃれ図書館でUX/UIを考えてみよう

 ブルームテクノロジーMR課某社員です。

 私たちのいるIT業界はここ最近のChatGPTをはじめ、各種AIはものすごい速さで進歩し、昨日できなかったことが今日はできてしまうような激しい変化の波が常に渦を巻き、その速さは単位にマッハを使いたくなるようなスピード感をもって動いています。

 そのIT業界でもよく話題になるのがUI/UXです。よく聞く言葉ですし、「なんかサイトをかっこよくしたりする時によく聞く単語だよねー。」とお考えの方は多いと思います。

 ですが、「正直UIもUXもよく解んない」や「イケイケのIT屋さんがやってくれるのがUIとかUXじゃないのー?」というのが皆さんの正直な感想ではないでしょうか。

 そこで、IT以外にもUX/UIの考え方がよく出てくる駅前の再開発ビルやリノベーション物件からUX/UI見ながら「UIやUXってこういう考え方なんだ!」という実例を見ていきましょう。

UX/UIってなあに?

 まず大前提です。今回の主題である「UXとUIとはなんぞや?」というところから始めましょう。

UX:ユーザー・エクスペリエンス(User Experience)

 まず、「UX」は「ユーザー・エクスペリエンス(User Experience)」のことで、直訳すると「ユーザーがこのサービスや場所で経験すること」といったような意味です。楽しいことや、「美しい!」「イケてる!」という感情に訴えかけるようなところだけではなく、「競合製品より使いやすいなあ」などの品質に関する事柄もUXに含みます。

UI:ユーザー・インターフェース(User Interface)

 そして、「UI」は「ユーザー・インターフェース(User Interface)」のことで、「ユーザーとサービスやソフトなどをつなぐもの」で、インターフェースは「境界面」と直訳されます。この定義からもお解りいただけると思いますが、「ユーザーから見えるものは全てUIに含まれる」といえ、上記のサイトのデザインももちろん「UI」に含まれます。ですが、それ以外のものも含まれていることがお解りいただけると思います。

でも、UX/UIってウェブ上だけの概念なの?

 ここまででUXとUIの定義を見てきましたが、「ユーザーがこのサービスや場所で経験すること」と「ユーザーとサービスやソフトなどをつなぐもの」という概念、別にウェブ上だけのものではないのでは?と思った方も多いと思われます。

 そうなんです。実は意外と身近にUX/UIの概念は取り入れられています。そこで、今回はUX/UI界隈でよく聞く概念を見聞きしながら、リアル世界に活かされている実例を見ていきましょう。

リアル世界でのUX/UI

 それでは、リアル世界におけるUX/UIはどのようなものか、その概念から見ていきましょう。

回遊性

 まず、「回遊性」という言葉をUX/UI界隈で見聞きする方は多いと思われます。この回遊性はどのようなものかを見てみると、「回遊性が高いサイトデザインの7つのポイント」として下記のように定義しているウェブデザイナーさんのページがみつかりました。

 なお、タイトルは「7つのポイント」ですが、挙げられているポイントは6つなので番号は修正してあります。

1、ユーザーの行動パターンを把握する
2、ナビゲーションのわかりやすさを重視する
3、フォントサイズやレイアウトに配慮する
4、ユーザーにとっての最適な操作方法を提供する
5、レスポンシブデザインに対応する
6、実際に使ってみる

noomuu「回遊性が高いサイトデザインの7つのポイント」『ユーザビリティを考慮したUIデザイン7つのポイント WEBデザイナー編』

 今本記事をお読みの方にも腑に落ちる定義だと思います。この定義の7つそれぞれを実際の街の空間に落とし込むとこのような感じになると思います。

1.市民がこの場所でどういう行動をするか、あるいはどういう行動をしてほしいか
2.看板や表示は適切な内容で適切な位置にあるか
3.場所の世界観に配慮する
4.市民がこの場所にどのようなモノ・コトを求めているか
5.多様な市民の求めにも揺るがないシステムや世界観が構築されているか
6.机上の空論ではなく実際の空間でシステムや世界観が機能しているか

(上記noomuu氏の定義をもとに筆者考案)

…このような感じになると思います。

 さて、ここでもう一つ「世界観」という気になるワードが出てきました。UIの主要概念を「回遊性」とするならば、UXの「ユーザー体験」も気になるところです。…この「世界観」と「ユーザー体験」、指している内容が非常に近い印象を受けませんか?

 では、次の項でこのユーザー体験について深掘りしていきましょう。

ユーザー体験=世界観

 先ほども述べました通り、「ユーザー体験」とは「ユーザーがこのサービスや場所で経験すること」といったような意味です。

 感情に訴えかけるようなところだけではなく、競合製品との比較や品質に関することも「ユーザー体験」です。そうなりますと、ユーザー体験は世界観に近い考え方である、とも取れるのではないでしょうか。

 では、回遊性やユーザー体験について深掘りしましたが、「回遊性と世界観が見える化されている」つまり「UX/UIの具現化」といえるような場所で実例を見ていきましょう。

 そんな都合のいい場所があるのかといわれれば、あるんです。それが。

リアルUX/UIの実例 ~ ”黒磯のおしゃれ図書館”「みるる」

外観。写真左側は黒磯駅西口。

 若干唐突かもしれませんが、栃木県の那須地方・那須塩原市(旧黒磯市)の黒磯駅前にある市立図書館が良い実例なのでこちらで紹介します。なお、いちいち「那須塩原市立図書館」と書くと若干まどろっこしいので、ここ以降はこの図書館の公式愛称である「みるる」で統一します。

 みるるは2020(令和2)年9月、黒磯駅前の地域活性化を目指し、都市再生整備計画事業の一環として建設されました。みるるはその名称からも解る通り、市立図書館なのですが図書館だけではなくホール・ギャラリー・カフェなどの機能を持ち、「市民のための交流拠点」として整備されています。

 みるるのコンセプトは一言でいえば「”森”のような空間」。設計はアーバン・アーキテクチャー・オフィス(UAo)のCEO・伊藤麻理さんが手がけたもので、コンセプトの詳細は以下の通りです。

 「まず求められていたのは、少子高齢化や経済の落ち込みなどに悩む街の活性化でした。そこで私たちは、図書館としての機能をあえて2階に集約。1階には駅と市街とを結ぶ通路を置き、その周りにカフェや『森のポケット』と呼ばれる展示スペースをレイアウトしたのです。こうすることで、駅から周囲の学校や商業施設に通う人々が楽しく通り抜けたり、自然に交流したりできる仕掛けをつくりました」

「建築士の枠組みを飛び越え未来の街づくりに携わる UAo株式会社(ユーエーオー)」(2023年9月28日13時45分閲覧)

 「那須塩原の地域アイデンティティでもある「森」を表現し、館内に点在する言葉の彫刻(アフォリズム)や展示物、活動を通して、学びのきっかけとなる空間づくりを目指した。」

「《那須塩原市図書館みるる》森の中を散歩しているような図書空間(2023年9月28日13時50分閲覧)

 ちなみに伊藤さんは黒磯擁する那須塩原市の出身で、「地元を良く知る建築家が地元のアイデンティティを活かして築き上げた」という意味では、みるるはかなり確度の高いUXでできている、という言い方もできそうです。

 では、みるるをUX/UIの視点から詳しく見ていきましょう。

コンセプトごとの「回遊性」を楽しむ【みるるアベニュー】

メインエントランス部分

 まず、みるるの空間設計で最も特徴的かつ最初に目に入るのは、1階を南北に貫く通路です。この通路は「みるるアベニュー」と命名され、黒磯駅の西口広場側に向いているメインエントランスから市街地側に向いている南エントランスまで一本のアベニュー(街道)のように繋がっています。

サインボードもUI(この場合は見やすさ)のみならずUX(世界観)に配慮していることが解る。
みるるアベニューは「――――みるるAve ―――― 」として1階中央部に記載がある。

 このみるるアベニューの両脇には、吹き抜け空間のようになっている場所に展示スペースである「森のポケット」や「えほんのもり」、「まなびのもり」といったコンセプトごとに分かれた空間となっています。

 図書館は通常、図書分類法に基づいた「日本十進分類表(NDC)」にしたがって書架(しょか:本棚)が配置されていますが、みるるでは場所ごとの世界観に沿って図書や資料が配架されており、その意味でも通常の図書館とは一線を画しています。

 「みるるアベニュー」という街道の両側に存在する「概念」ごとの空間、最初は駅-市街地のショートカットとしてしか使っていなくとも、小さな世界観ごとにまとまっている空間は図書館のハードルを下げ、図書館に普段あまり立ち寄らない層にも訴求するように空間が設計されています。

 その意味では、単に「駅と市街地」の回遊性ではなく「駅と市街地と気になった世界観」への回遊性が確保されている、といえそうです。

みるるならではの「ユーザー体験」【言葉の彫刻】

 みるるの場合は「場所の世界観」に沿った本が配置されている、というのは上記の通りです。「森のポケット」には設計の伊藤さんのいう「言葉の彫刻」が書架の上部に配置され、その印象的なフレーズが空間の世界観をある種の鮮烈さをもって訴求してきます。

 地域への知の還元という意味では、その敷居は低い方が市民に広く訴求できます。低くした敷居から市民に「森のような空間」というコンセプトで魅力的な図書館という体験、そして併設されたカフェも一続きの空間となっています。

 これをまとめると「地域に開かれつつ、図書館とブックカフェの双方が味わえる空間、そしてその空間そのものも地域に繋がり循環している」というユーザー体験を提供しているといえるのではないでしょうか。

まとめ

 以上で「話題のおしゃれ図書館でUX/UIを考えてみよう」をお送りいたしました。IT業界は激しい日進月歩、いや秒進分歩の勢いで変化が起きていることは冒頭でも述べたとおりです。

 その中でも良く取りざたされ、その割にはよく解らないことも多いUX/UI。その事例が時間がのどかに流れる那須は黒磯の街の中にあるというのは、中々興味深いのではないでしょうか。

 もっとも、「世の中で一番遠い所は自分の隣」という言葉もある通り、「遠い所にあるもの同士」は「実は近所同士」なのかもしれません。

 かのエジソンも当時最新鋭だった電球のフィラメント(白熱電球内の発光する線の部分)を伝統と格式の高い京都のマダケから見つけたりと、テクノロジーの進歩のきっかけは往々にして意外なところにあるものです。

 今回のUX/UIのように、たまには対極にあるものから同じものを多角的に見てみるのもありかもしれません。

 ではまた、どこかでお会いしましょう。